■第2回 「アスランの決定的一言」

アスランの鞄と銃
 唐突に始まる前回の続き。アスランとカガリが二人だけで無人島に取り残されたとき、アスランが持っていたサバイバル・パックの拳銃がオープンボルト(またはオープンブリーチ)・ファイヤーの銃であったことがすべての発端だったわけで。アスランから奪った銃をカガリが放り出したとき、アフレコ台本のセリフは最初、「チェンバーを引いた銃を投げる奴があるか」。 でも銃に詳しい人ならわかるけど、普通、チェンバーは引かない。

支給品ではありません、私物です。返してください。
で、このセリフを「ハンマーをコックした銃」か「装填した銃」または「セイフティを解除した銃」に変更するよう指示したら、「じつはこの銃の絵がハンマーレスで、イントラテック9(昔のKG9)みたいな銃になってるよ」、と。んで、カガリが投げる時にはボルトが後退してんのね。話を聞くと、本チャンの絵ではテック9とイングラムとスコーピオン(どれも実在する銃の名前)をかけ合わせたようなものになるらしい。だから「ハンマーをコックした銃では困るんです……」なるほどね。でもインターナル・ハンマーの銃だってあるけど……じゃ、「セイフティを解除した銃」ならいいですか?  え、面白くないって? わかった、じゃあ「オープンボルトの銃」でいてまえっ!とりあえず18時台の地上波TVアニメで「オープンボルト」って言葉、使ってみよう!

普通の女の子はオープンボルト知らないよね・・・。
 ところがアフレコ時にアスラン君の一言、「オープンボルトの銃を投げる奴があるか……ってそうはならないとおもうんですけど」。ぬぬ、さすがにコーディネイターの突っ込みは臓腑を抉る。そう、君の疑問は正しいのです、アスラン君……っていうか、君、ガンマニアかい!
 それはともかく、用語的に言えばオープンボルトの銃だから投げちゃいけないってわけじゃない。それを言うなら、銃はみんな投げちゃいけません。暴発の危険があるし、なにより可愛い銃が痛むでしょ!  アスランは暴発する危険があるから薙げるなと言ったわけで、その意味では「銃を投げる奴があるか!」でいい。ともあれ、セリフが変った背景には前述のようなやりとりが隠れておりました。そして同時に、特殊設定家の煩悶も始まりましたとさ。いくらサバイバル・パックの銃とはいえ、あのアスラン・ザラがオープンボルト式の銃なんて持つかね?  それもサブマシンガンじゃない、単発式のハンドガンですぜ。さらによく聞いたら、官給品ではなく私物ですってよ、奥様。うひょっ、制式火器じゃないんだ。さあそこで、いったい何が悩ましいのかと言えばだ……あっ、また紙数が尽きた!(本当にこの項続く、のか?)
■著者プロフィール・森田 繁(もりた しげる)■
スタジオぬえ所属。学生時代に『ガンダムセンチュリー』の編集に参加し、そのまま業界入り。『超時空要塞マクロス』を皮切りに様々なアニメーション、実写、ゲームなどの企画に携わる。時には小説も書く。『∀ガンダム』で設定考証、『ガンダムSEED』では特殊設定と脚本を担当。