■第3回 「それさえも自虐的な突っ込みの日々」

ついウトウトしてカガリに奪われてしまう“思い出の銃”
   前回の続き。要するに、高い知性を持つコーディネイターであり職業軍人として鍛え上げられたアスランが、オープンボルトのハンドガンなどというけったいな代物をなぜに持つのか? という疑問。  オープンボルトというのは構造が単純で信頼性が高く、製造コストも低いため軍用SMG(サブマシンガン)などでよく採用された機構。フルオート射撃のできる小型火器を安く大量生産するのにはうってつけだってこと。前回触れたテック9やイングラム、それに第2次大戦で有名なグリースガンやステンガンなんかはみんなこれです。コストの代償として命中精度がちと低いが、元々、SMGというのは戦場で非力なピストル弾をばらまくための兵器だからこれはこれでよし(ただし近年は、H&KのMP5シリーズに代表される、高精度のクローズドボルト・ファイヤ式サブマシンガンが主流になりつつある)。でも単発式の拳銃でそれはどうよ、と。
 で、一応ね。考えたですよ。理屈を。アスランがなんでそんな銃を持っているのか。
 宇宙兵器として誕生したモビルスーツのコクピットに用意されたサバイバル・キットは、その内容物が真空にさらされることを前提としている。通常、サバイバル・キットに用意された拳銃というのは、極めて使用頻度が低い(たぶん)。つまり、滅多に操作されることがないだろう。さあここで、新しい単語が登場します。「真空接着」。わしの造語じゃないよ。簡単に言うと、二つの金属を真空状態で密着させておくと接触面がまるで接着したようにくっついてしまう現象のことです。ハンドガンの摺動部で、この現象が起きると非常にまずい。 ここぞというときに撃てなきゃ、命に関わる。そしてこの現象は、構造が複雑なロータリーボルト・ファイヤやクローズドボルト・ファイヤの方が起きやすい(たぶん)。だから、アスランは精度よりも作動の信頼性を重視して、サバイバル・キットの中に私物としてこのハンドガンを忍ばせておいたのだ…… なんつって。

さすがのコーディネイターも出撃前は忙しいのでチェックできそうにないようです。
だけど真空接着なんてそう滅多に起こることではないから、出撃する前のプリフライト・チェックで銃の点検しときゃあいいよなぁ。それとも部材表面をテフロン処理しておくとか。でもやっぱり、マーフィーの法則からいっても不安要素は徹底的に排除しておくべきだしなぁ……。
 24話ではアスラン、カガリにパクられた銃を、思いっ切り空中キックで蹴っ飛ばしている。投げるのはダメでも蹴るのはありですかか、アスラン?……なんちゃって。あれはまあ、ボルトをコックする前の銃だからいいんだろうけど、 武器に関してアスランは独特の美学を持っているのだ(たぶん)! その後でカガリを縛ってから彼女の銃をバラして捨てちゃったのはどうよ。

武器に関してアスランは独特の美学を持っているのだ(たぶん)!
たとえ安物のサタデーナイト・スペシャルであっても武器を捨てる兵隊はいない。ましていつ救助されるかもわからない状況下では、少しでも多めに武器を確保しておくべきだ……といっても、すぐ後には極め付けの武器、イージスがデンと腰を下ろしているんだっけね。でもイージスはハンドガンの代りにはならないよ……なんて自閉していく思考の渦に揉まれながら、特殊設定人の日々は過ぎていくのでした。
■著者プロフィール・森田 繁(もりた しげる)■
スタジオぬえ所属。学生時代に『ガンダムセンチュリー』の編集に参加し、そのまま業界入り。『超時空要塞マクロス』を皮切りに様々なアニメーション、実写、ゲームなどの企画に携わる。時には小説も書く。『∀ガンダム』で設定考証、『ガンダムSEED』では特殊設定と脚本を担当。